肘から小指にかけての痺れに注意!肘部管症候群の病態と治療法を解説
最終更新日 2022/8/25
接骨院がくグループ代表
柔道整復師 山田 学 監修
スポーツや仕事後に肘から指先にかけての痺れや重怠さを感じた経験はありませんか?
その痺れ、もしかしたら「肘部管症候群」かもしれません。
肘部管症候群は、若年者から高齢者まで幅広い方に発症する恐れがあります。
「ただの痺れ」「そのうち和らぐだろ」と軽視されがちですが、悪化すると手術が必要になる可能性があります。
我慢せず、接骨院などの医療機関に相談するようにしましょう。
今回は、「肘部管症候群」の病態や治療法などを解説していきます。
この記事を読むことで、肘から小指にかけての痺れの悩みが解決されるかもしれません。
肘から小指にかけての痺れに注意!肘部管症候群の病態と治療法を解説 もくじ
・肘部管ってどこ?
・肘部管症候群とは?
・発生原因
・肘部管症候群の症状
・診断
・治療方法
・まとめ
肘部管ってどこ?
はじめに、肘部管の場所について解説します。
一言でいうと、肘の内側にある狭い”トンネル“のことを指します。
手のひらを前に向けて腕を垂らしたときに、肘の内側の出っ張りを上腕骨内側上顆といい、肘の出っ張りを肘頭といいます。この内側上顆と肘頭の間に靭帯があります。靭帯が覆いかぶさってできたトンネルを、「肘部管」といいます。
そして、肘部管の中を尺骨神経が通り抜け、指先へと神経が枝分かれしていきます。
肘をぶつけたときに、「ビーン!」と痺れが走った経験をしたことがありませんか?
一般的に「ファニーボーン」といわれるものです。その痺れの正体が、尺骨神経です。
肘部管症候群とは?
肘部管症候群は、肘部管の中を通っている尺骨神経が原因で発症するものです。
この尺骨神経がなんらかの原因により、肘部管内で圧迫や牽引、摩擦を起こし、痺れや重怠さなどの神経障害を引き起こします。
この尺骨神経は、前腕の小指側から小指・薬指の感覚機能を支配しています。
そのため、肘部管症候群を引き起こすと、前腕から小指・薬指にかけての痺れや重怠さが発生するのです。
発生原因
肘に負荷が加わることで尺骨神経や肘周囲の筋肉に圧迫、牽引、摩擦が起こり、肘部管症候群を発症します。
そのため、肘に負荷のかかる動きをすることが最大の原因となります。
・肘の曲げ伸ばしが多いスポーツ
肘部管症候群は、スポーツで発症することから若年者に多い疾患です。
特に野球の投球動作や柔道の投げる動きは、勢いよく肘の筋肉が伸張されるため肘に負荷がかかります。
この動きが何度も反復されると、尺骨神経や周囲の筋肉が摩擦を起こし、炎症を招くことで肘の痛みや痺れが発生してしまうのです。
・肘に負荷のかかる仕事
肘部管を構成している靭帯(滑車上肘靭帯)は、肘を曲げることで引き伸ばされ緊張します。それにより肘部管が狭くなり尺骨神経へ負荷がかかるのです。
そのため、肘を曲げた状態で作業をすることが多い職業の方も、肘部管症候群を発症することがあります。
大工さんや引っ越し業者さんなど、重い物を持つ機会が多い仕事や、長時間の運転などでも発症します。
・転倒などの外傷
転倒や交通事故などで肘に強い衝撃が加わり、発症することもあります。
そういった場合は肘部管症候群単独ではなく、骨折や靭帯損傷などの合併症として発症することが多いです。
・骨折や変形性肘関節症などの既往歴がある方
肘部管症候群が発症する方には、以前、肘の骨折や変形性肘関節症などの既往歴がある場合が多いです。
肘の骨折や変形性肘関節症などを受傷した方は、回復過程で外反肘といい、肘を前方に伸ばした時に、前腕が外側に曲がった形の変形を引き起こすことがあります。
生活上は支障ないのですが、肘が外側に曲がった状態で生活していると、肘の内側にある肘部管にストレスが加わり、肘部管症候群を引き起こしてしまう可能性があります。
特に骨の成長過程である幼少期に骨折した場合に、多く発症します。
肘部管症候群の症状
肘に存在する神経や筋肉に障害が加わると、さまざまな症状が出現します。程度により、軽症のものから生活に支障が生じるものまで様々なものがあります。
・感覚障害
尺骨神経は、首から腕を伝って肘部管を通り、前腕の小指側、そして小指・薬指へ枝分かれしていきます。
肘部管で尺骨神経が障害を受けてしまうと、肘から先の前腕部と小指・薬指に感覚障害が起こります。
「ビリビリ」と痺れが生じたり、触られたという感覚が鈍くなったり、腕が重怠いと感じたりします。
・痛み
尺骨神経や肘周囲の筋肉が伸び縮みすることで摩擦を起こし、尺骨神経の損傷や、最悪の場合、神経の断裂を起こすことも考えられます。この時には、肘周囲に痛みが生じます。
・筋力低下
尺骨神経は感覚機能だけでなく、筋肉の運動機能の役割も担っています。
指や手首を曲げる筋肉(深指屈筋、尺側手根屈筋)や、指を横に開いたり閉じたり(掌・背側骨間筋)する筋肉を支配しているため、肘部管で尺骨神経が障害を受けることで、筋肉が働きにくくなり筋力が落ちしまいます。
・手の機能が落ちる
感覚障害、筋力低下を引き起こすと、指の自由が利きにくくなります。
細かなものをつまむ、強く握るなどの手の機能が落ち、生活上に支障が生じてきます。
・変形
肘部管症候群の重症例には、「鉤手変形(かぎてへんけい)」という特徴的な手の変形が見られます。
尺骨神経が支配する手の筋肉が障害を受け、筋肉が働かず縮んでしまう萎縮という状態になることで、生じる変形です。
診断
肘部管症候群と診断する判断材料を紹介していきます。
・整形外科テスト
・肘屈曲テスト
肘を可能な限り曲げ、そこからさらに手首を手の甲側に曲げます。
その際に小指と薬指に痺れが出現したら陽性です。
・ティネル兆候
肘部管のある肘の内側を、打腱器などで軽く叩きます。
その際に小指・薬指まで痺れが走ったら陽性です。
・フローマン兆候
両手の親指と人差し指で紙をつまみます。
その状態で他者に髪を引っ張ってもらいます
その際に紙を引き抜かれないように、親指の第一関節が過剰に曲がっていたら陽性です。
・エコー検査(超音波検査)
エコー検査では、筋肉・腱の状態をみます。
筋肉・腱が傷ついていないか(断裂・変性)などを評価します。
・X線検査(レントゲン検査)
X線検査では、肘の骨の状態をみます。
外反肘になっていないか、関節の隙間は正常か、骨が削れていないか、などを評価します。
治療方法
次に肘部管症候群に対しての治療方法を紹介します。
・局所安静
まずは安静です。
スポーツや仕事によって神経が圧迫されたり、筋肉が疲労していたりする場合があるため、安静にして痛みの具合が変わるか様子をみます。
可能であればスポーツは休む、仕事は休めなければ業務内容を調整するなど、肘にかかる負担を減らすようにしましょう。
・マッサージ・ストレッチ
肘周囲に存在する筋肉が、過剰に働いてしまう過緊張状態を起こしていることがあるので、マッサージやストレッチで緊張をとっていきます。
また、肘や手首、指の柔軟体操を行うことは予防につながってきますので、日頃から行うように心がけましょう。
しかし、痛みが強い炎症状態の際はストレッチなどのトレーニングにより、炎症を強める恐れがあるため控える必要があります。
・薬物療法
消炎鎮痛剤やビタミンB12剤を服用し、炎症を抑えていきます。
・注射
ステロイド注射を炎症部に投与し、炎症を抑えていきます。
・手術
肘部管症候群は、まず保存療法が適応されますが、悪化すると薬や注射などでは対処が難しく手術を選択する方も多いです。
手術では肘部管を広げる手術や、神経を圧迫している障害物を取り除く手術が行われます。
尺骨神経の障害となる靭帯や骨の出っ張り、ガングリオンと呼ばれる瘤を取り除き、肘部管を広げていきます。
また、外反肘などの変形が強い方には、変形を治す手術が行われることもあります。
まとめ
今回は、肘に負荷のかかるスポーツや仕事を行っている方に発症しやすい、肘部管症候群について詳しく解説してきました。
若年者に多い疾患ではありますが、長年の疲労や年齢による筋肉の変性などで、高齢の方にも発症する疾患です。
肘部管症候群は、放置してしまうと手術が必要になるほど悪化する恐れがあります。「自分なんかが」と思わず、早めに医療機関を受診し適切な治療を受けることが大切です。
参考文献
糸満 盛憲 他:整形外科学 p424~p426 2016
工藤 慎太郎 他:運動器疾患の「なぜ?」がわかる臨床解剖学 p48~p52 2013
Medical Note「肘部管症候群について」
肘部管症候群について | メディカルノート (medicalnote.jp)
日本整形外科学会「肘部管症候群」
「肘部管症候群」|日本整形外科学会 症状・病気をしらべる (joa.or.jp)