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親指から中指にかけて違和感?正中神経麻痺の病態と治療法を解説

最終更新日 2023/1/25
接骨院がくグループ代表
柔道整復師 山田 学 監修

刃物やガラスで手を切ってしまってから、親指から人差し指に違和感が生じた経験はありませんか?
その症状、もしかしたら「正中神経麻痺」かもしれません。
正中神経麻痺は、怪我によって神経を損傷するものから、神経の周囲の組織に異常が起こることによって神経が圧迫されて生じることもあります。
今回の記事では、「正中神経麻痺」の病態や治療法などを解説していきます。

親指から中指にかけて違和感?正中神経麻痺の病態と治療法を解説 もくじ

・正中神経ってなに?

・正中神経麻痺とは?

・発生原因

・症状

・診断

・治療方法

・まとめ

正中神経ってなに?

正中神経とは、脊髄に存在する腕神経叢と言われる神経の束から派生した神経の1つです。
首から上腕の内側、肘の前内側、前腕の掌側面の真ん中を通っていきます。そして、手首に存在する「手根管」というトンネルを抜けて、指先へと伸びていきます。
正中神経は、手のひらをひっくり返す運動や、人差し指と中指を曲げる運動、あとは親指と人差し指で○を作るような運動を司るほか、親指から中指の掌側面の感覚を司ります。

正中神経麻痺とは?

正中神経麻痺とは、この腕から手にかけて伸びている正中神経が何らかの原因で障害を受けることを指します。
正中神経は前腕から上腕の辺りで傷害された場合と、前腕より手首寄りで傷害された場合で若干症状が異なるため、それぞれ高位麻痺、低位麻痺と分けられています。
高位麻痺は、正中神経が深いところを走行している場所で障害を受けます。多くの場合、骨折や肘関節の脱臼によって引き起こされます。
一方で低位麻痺は、正中神経がやや浅いところを走行している場所で障害を受けるため、手首の辺りの切り傷によって発生することが多いです。
障害される部位が異なれば、障害される筋肉も変わってくるため、症状が異なっていくのです。

発生原因

正中神経麻痺の発生原因について紹介していきます。

・刃物やガラスによる切り傷

正中神経麻痺の低位麻痺の代表が「切創」です。
調理や仕事などの際に刃物で手を切り、その際に正中神経を傷つけてしまうことが多いです。
神経線維が急に途絶してしまうため、支配する領域の運動が困難になったり、感覚がなくなったりします。

・手首に負担のかかるスポーツ・仕事

手首に負担がかかるスポーツや仕事を続けることで、神経が徐々にダメージを受け、神経の機能が低下していきます。
手首を頻繁に動かすことで手根管内の圧力が上昇し、中を通る正中神経を圧迫してしまいます。それにより、神経へのダメージが蓄積し、だんだんと正中神経麻痺の症状が出現していきます。

・肘から手首にかけての怪我

正中神経麻痺は、他の疾患の合併症として発症することも多く、肘の骨折や前腕にある橈骨・尺骨の骨折、手首の怪我で正中神経を傷つけてしまう恐れがあります。
前腕の骨折の際には、神経に骨折片が触れることで神経障害を引き起こしたり、筋肉の損傷による腫脹で神経が圧迫されて神経障害を起こしたりします。
このように、肘から前腕、手首にかけての怪我でも、正中神経麻痺は起こりえるのです。

・他の病気による二次障害

神経以外の組織が病気によって腫脹や変形を起こし、神経を圧迫することがあります
正中神経の場合、手根管症候群、円回内筋症候群、前骨間神経症候群の3つが代表的なものとして知られています。

症状

正中神経麻痺で生じる症状について紹介します。

・感覚障害

正中神経は掌側の親指から中指までの感覚を支配しており、正中神経が障害を受けると、これらの領域の感覚に異常が起こります。
神経が圧迫されている最中は痺れを感じます。一方で、神経が傷害されて完全に断たれてしまうと、痺れだけでなく触覚も感じなくなります。
正中神経麻痺の高位麻痺の場合は、それに加えて前腕の掌側の感覚にも同じような感覚障害が起こります。

・力が入らなくなる

運動神経の障害により、力が入らなくなります。こちらも、神経がすこし障害を受けている程度であれば力が入りにくいという症状で済みますが、完全に神経が断たれた場合には力が全く入れられない麻痺の状態になってしまいます。
その中でも、正中神経麻痺の特徴的な運動障害を紹介します。

・猿手

正中神経麻痺が比較的長い期間続くと起こる症状です。
母指球(親指の付け根で掌側の膨らみ)は、正中神経によって支配される筋肉群です。
長い期間にわたって正中神経が傷害されると、母指球が萎縮してしまいます。
手を握ろうとしても、親指は動かない、手のひらを曲げる事ができない、この時の手の形が猿の手に似ていることからこの名がつけられました。

・tear drop sign

人差し指と親指で物をつまもうとすると、”OK”サインのような形になります。
しかし、正中神経麻痺があると、親指を曲げることができないため、”OK”サインのような形ではなく、雨粒のような水玉の形をします。
このような運動障害が起こることをtear drop signといいます。

・祈祷肢位

祈祷肢位は、手をグーにしたときに起こる症状です。
通常であれば5本の指が曲がりグーを作ることができますが、正中神経麻痺の高位麻痺を起こすと薬指と小指は曲げることができますが、親指と人差し指、中指は曲げることができません。その際の形が祈祷するときに作る手の形に似ていることから、祈祷肢位と呼ばれます。

・ボトル徴候

ボトル徴候は、円筒をつかむときに起こる障害です。
通常、円筒を握ったときには、人差し指、中指、薬指、小指が一方向から円筒を包み、親指が逆側から包みます。しかし、正中神経麻痺があると親指を曲げることができないため、円筒を包むことができません。これをボトル徴候と言います。

診断

正中神経麻痺と診断する判断材料を、解説していきます。

・整形外科テスト

さまざまな運動をしてもらうことで、正中神経の機能が保たれているかを確認します。
上記で解説したtear drop signや祈祷肢位のチェックの他にも、整形外科テストがあります。

・ファーレンテスト:胸の前で、手の甲と手の甲を合わせて1分間その状態を保ちます。この間に痺れを感じたり、元からある痺れが強くなったりした場合は、手根管での正中神経圧迫を疑います。

・ティネル徴候:手首の掌側をたたくと痺れ、さらにその痺れや痛みが指先に響くと陽性です。

・手首・手指の筋力低下

運動神経麻痺の徴候として、筋力低下を認めます。軽度であれば、筋力が正常側に比べて低下している所見が認められます。神経障害が重度であれば、明らかに筋力が低下していて、正常な活動が行えなくなります。

・前腕・手の感覚障害

触覚や、冷覚を実際に触ってみることで確かめ、神経障害による感覚障害の程度や範囲を調べます。特に、正常部位との比較が重要となります。

・エコー検査(超音波検査)

エコー検査では、肘から手根管内の正中神経の状態をみます。
神経、筋肉が傷ついていないか(断裂・変性)などを評価します。

・X線検査(レントゲン検査)

X線検査では、上腕から手にかけての骨の状態を確認します。
正中神経麻痺は骨折や変形の二次障害として引き起こるケースが多いため、確認する必要があります。

・神経伝導検査

神経の伝導具合をみます。
正中神経が指先までしっかり伝導することができているか、速度が遅くなっていないかを評価します。

治療方法

正中神経麻痺に対しての治療方法を紹介します。

・局所安静

正中神経麻痺では安静が第一です。
関節を動かすことで関節周囲や筋肉に負担がかかり、重度になれば炎症が起こります。炎症によって周囲の組織が腫脹し、その結果として神経が圧迫されて正中神経に障害が起こります。安静にすることで関節周囲や筋肉の炎症が治まるのを待ち、神経に対する傷害を抑える事ができます。

・サポーター・装具

サポーターや装具はそれ自体が治療効果を持っているのではなく、局所の安静をサポートする事によって治療効果を期待します。
軽症のものであれば市販で売っているサポーターなどで代用できますが、重症のものでは「長・短対立装具」などの装具の使用が望ましいです。

・マッサージ・ストレッチ

神経障害や炎症が起こっている部位は、血流が悪くなり凝り固まり、周囲の組織の修復が起こりにくくなります。マッサージやストレッチをすることで血流を改善し、正中神経障害の改善を促します。
しかし、痛みが強い炎症状態の際は、ストレッチなどのトレーニングにより、炎症を強める恐れがあるため控える必要があります。

・薬物療法

主に炎症を抑えて痛みを抑える、抗炎症薬が使用されます。具体的にはロキソプロフェンやボルタレンなどの消炎鎮痛薬が使用されます。
ただし、鎮痛薬はあくまで現時点の症状を抑えるために使用するだけであって、根本治療とはなりません。他の治療の補助として使うものだと考えて下さい。

・注射

局所の炎症を抑えるため、ステロイドをはじめとした炎症を抑える薬の注射が行われます。

・手術

症状が長引く重症例に対しては手術を選択する場合があります。
特に、手根管症候群や円回内筋症候群によって、正中神経障害が起こっている場合に選択されることが多いです。具体的には圧迫している組織を取り除く手術や、腱を移行して筋萎縮を改善する手術などがあります。

まとめ

今回は、親指から中指にかけて障害が起こる正中神経障害について詳しくご紹介してきました。
軽症のものであれば安静や薬で回復しますが、重症の場合は手術も検討されます。
筒状の物が持ちにくくなった、手の痺れや違和感を感じるなどの症状が出ているようであれば、早めに専門家へ受診をしましょう。

参考文献
糸満 盛憲 他:整形外科学 p414~415 2016
工藤 慎太郎 他:運動器疾患の「なぜ?」がわかる臨床解剖学 p74~p76 2013
高橋正明 他:STEP 整形外科p201  2005
松村讓兒 他:プロメテウス解剖学アトラス解剖学総論運動器系p326 2007
Medical Note 「正中神経麻痺」
https://medicalnote.jp/diseases/%E6%AD%A3%E4%B8%AD%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E9%BA%BB%E7%97%BA?utm_campaign=%E6%AD%A3%E4%B8%AD%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E9%BA%BB%E7%97%BA&utm_medium=ydd&utm_source=yahoo