小指と薬指の違和感に注意!尺骨神経麻痺の病態と治療法を解説
最終更新日 2022/9/28
接骨院がくグループ代表
柔道整復師 山田 学 監修
腕から前腕にかけて骨折や変形などの怪我を負った時に、怪我した箇所とは別に、小指と薬指に痺れや、力の入りにくさなどを感じた経験はありませんか?
その症状、もしかしたら「尺骨神経麻痺」かもしれません。
尺骨神経麻痺は、スポーツや仕事などによって一時的に発生するものから、他の怪我の合併症として発生する重症のものまであります。
今回は「尺骨神経麻痺」の病態や治療法などを解説していきます。
小指と薬指の違和感に注意!尺骨神経麻痺の病態と治療法を解説 もくじ
・尺骨神経ってなに?
・尺骨神経麻痺とは?
・尺骨神経麻痺の原因
・尺骨神経麻痺の症状
・診断
・治療方法
・まとめ
尺骨神経ってなに?
尺骨神経とは、脊髄に存在する腕神経叢と言われる神経の束から派生した神経の1つです。
首から上腕の内側を通り、「肘部管」と言われる肘の内側にあるトンネルを抜けて、指先へと伸びていきます。
肘をぶつけて「ビーン!」と肘から指先にかけて痺れが走った経験を一度はしたことがあると思います。
一般的に「ファニーボーン」といわれるものです。
その痺れの正体が尺骨神経です。
尺骨神経麻痺とは?
尺骨神経麻痺とは、この腕から手にかけて伸びている尺骨神経が、何らかの原因で障害を受けることを指します。
主に尺骨神経が支配をしている筋肉や皮膚に障害をきたすため、腕から手にかけて力が入らなくなったり、痺れを感じたりする症状が発生します。
また、尺骨神経は腕から手指に至るまでに、2つの“トンネル”を通ります。
1つ目が「肘部管」といい、肘の内側に存在するトンネルで、この部分が狭くなり尺骨神経を圧迫してしまう症状を「肘部管症候群」と呼びます。
2つ目が「ギオン管」といい、小指側の手首(手のひら側)に存在するトンネルで、この箇所が狭くなり尺骨神経を圧迫してしまう症状を「ギオン管症候群」と呼びます。
尺骨神経麻痺は、この2つのトンネルで発生することが多いです。
そして、尺骨神経麻痺はこの神経の長さから、肘周囲で障害を受ける「高位麻痺」と、肘から先で障害を受ける「低位麻痺」の2つに分類されます。
尺骨神経麻痺の原因
尺骨神経麻痺の原因について解説していきます。
・肘、手首に負担のかかるスポーツ
肘に負担のかかるスポーツには、柔道や野球が挙げられます。投げる動きは、勢いよく肘の筋肉が伸ばされるため、肘に負荷がかかります。
手首に負担のかかるスポーツでは、ゴルフや自転車が挙げられます。特にハンドルを縦に持つタイプの自転車では、小指側の手首に長時間負荷がかかるため、尺骨神経を圧迫しやすいです。
・肘、手首に負担のかかる仕事
肘に負担のかかる仕事では、重い物を持つ機会が多い大工や引っ越し業者、長時間の運転を行うトラック運転手などが挙げられます。
手首に負担のかかる仕事では、同様に重い物を持つ仕事や、トンカチで釘を打つなど手首の反復運動を行う大工などが挙げられます。
・肘から前腕にかけての怪我
尺骨神経麻痺は、他の疾患の合併症として発症することも多く、肘の骨折や前腕にある橈骨・尺骨の骨折、手首の怪我で尺骨神経を傷つけてしまう恐れがあります。
尺骨神経は、腕から手指にかけて走行しているため、骨折したことで折れた骨が神経を圧迫したり、脱臼して神経を牽引してしまったりして発症します。
また、「ガングリオン」という腫瘤が肘や手首に出現してしまい、尺骨神経を圧迫してしまうこともあります。
・加齢や重労働による肘関節の変形
長年にわたり腕を使用してきた高齢者、重労働や激しいスポーツを行っている方は、肘関節のクッション的役割を果たしている「軟骨」がすり減ってしまい、肘関節の変形を引き起こす可能性があります。これを「変形性肘関節症」といいます。
そして、肘関節が変形したことで尺骨神経を圧迫したり、傷つけてしまったりする可能性があります。
仕事やスポーツに限らず、年齢によって尺骨神経麻痺が発生することも考えられます。
尺骨神経麻痺の症状
尺骨神経麻痺で生じる症状について解説します。
・感覚障害
感覚障害は、尺骨神経麻痺の代表的な症状の1つです。
尺骨神経は、腕から肘、手指にかけて枝を伸ばしています。特徴的なのが前腕の小指側から小指と薬指にかけて痺れが生じます。
一方で、感覚自体を感じにくくなる場合もあります。
神経が長時間圧迫されることで、その神経の働きが低下し、支配されている腕から手指にかけての感覚が鈍くなることもあります。
・力が入らなくなる
尺骨神経は、感覚障害と同様に、腕から手指にかけての筋肉の支配も司っているため、腕から手指にかけての筋力低下も引き起こします。
その中でも、尺骨神経麻痺特有の症状である「鷲手」を紹介します。
・鷲手(鉤爪手)
小指側の手首(手のひら側)に存在するギオン管で障害を受けると、手首より先に存在する筋肉に障害が生じます(手内在筋といいます)。
手内在筋が固まって働かなくなる「萎縮」を引き起こし、指を伸ばした状態で横に開いたり閉じたりできなくなったり、小指と薬指の関節が変に曲がったり伸びたりして鷲のような手になることから「鷲手」と呼ばれています。
・指先の拙劣さ
指先、特に小指と薬指に痺れや筋力低下が生じるため、握力やピンチ力が低下し、指先の細かな運動ができなくなってしまいます。
雑誌のページがめくれない、箸を上手に使えない、縫い物ができない、など生活に支障が生じます。
診断
尺骨神経麻痺と診断する判断材料を紹介していきます。
・整形外科テスト
整形外科テストは、わざと神経や血管を圧迫したり、圧迫される肢位を取ったりし、痛みや痺れなどの症状が出現するか評価する検査です。
・ティネル徴候
尺骨神経が伸びている箇所(肘の内側や小指側の手首など)を打腱器などで軽く叩きます。
その際に小指、薬指まで痺れが走ったら陽性です。
・フローマン徴候
紙を1枚用意します。
紙の両端を両手の親指と人差し指でつまみ、親指を伸ばしたまま引っ張り合います。
尺骨神経麻痺だと親指を人差し指に近づける動内転というきが、親指を伸ばした状態だと困難になります。
そのため、紙を引っ張った際に親指の指先が曲がってきたら陽性です。
・手首・手指の筋力低下
尺骨神経麻痺を起こすと、手首を手のひら側に曲げる掌屈、小指側に曲げる尺屈、指を横に開いたり閉じたりする内転・外転、手指の曲げる屈曲(特に小指と薬指)、などが困難になります。
そのため、手首と手指の筋力が低下していないか確認します。
・前腕・手の感覚障害
尺骨神経が支配している前腕の小指側(手のひら側)や、手のひらの小指側の感覚低下、痺れの有無など、もう一方の手と比較して評価します。
・エコー検査(超音波検査)
エコー検査では、肘部管内、ギオン管内の神経の状態をみます。
神経、筋肉が傷ついていないか(断裂・変性)などを評価します。
・X線検査(レントゲン検査)
X線検査では、上腕から手にかけての骨の状態を確認します。
尺骨神経麻痺は骨折や変形の二次障害として引き起こるケースが多いため、確認する必要があります。
・神経伝導検査
神経の伝導具合をみます。
尺骨神経が指先のまでしっかり伝導することができているか、速度が遅くなっていないかを評価します。
治療方法
次に尺骨神経麻痺に対しての治療方法を紹介します。
・局所安静
尺骨神経麻痺では安静が第一です。
軽症のものであれば安静に過ごすことで症状は改善してきます。
そのため、腕に負担のかかる仕事であれば業務調整、スポーツは休むなどをして安静に過ごす必要があります。
・サポーター・装具
サポーターや装具は、手首に負荷のかかりにくい位置に固定したり、変形を和らげたりなどの効果があります。
軽症のものであれば市販で売っているサポーターなどで代用できますが、重症のものでは「鷲手用スプリント「ナックルベンダ」「指用逆ナックルベンダ」など、装具の使用が望ましいです。
また、装着することで精神的にも安心することができます。
しかし、手の形に合っていないものや、効果が感じられない方には、逆効果になる恐れも考えられます。
・マッサージ・ストレッチ
上腕から手指にかけて、硬くなってしまった筋肉をマッサージやストレッチで和らげていきます。
また、肘や手首、指の柔軟体操を行うことは尺骨神経麻痺の予防につながってきますので、日頃から行うように心がけましょう。
しかし、痺れや感覚障害が強い状態の時は、ストレッチやマッサージにより炎症を強める恐れがあるため、控える必要があります。
・薬物療法
消炎鎮痛剤やビタミンB12剤を服用し、炎症を抑えていきます。
・注射
ステロイド注射を炎症部に投与し、炎症を抑えていきます。
・手術
尺骨神経は、軽症のものであれば安静で症状が改善してきますが、症状が長引く重症例に対しては手術を選択する場合があります。
まず、骨折や変形など他の疾患の二次障害として発症したのであれば、骨折や変形に対しての手術が必要になってきます。
神経自体が損傷を受けている場合は、神経剥離、神経縫合、神経移植などの手術が行われます。
また、肘部管やギオン管内の除圧術などもあります。
まとめ
今回は、小指・薬指の痺れ、筋力低下が特徴的な尺骨神経麻痺について詳しく解説してきました。
軽症なものから重症なものもあり、放置していると生活に支障をきたす可能性も考えられます。
我慢せず早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが大切です。
参考文献
糸満 盛憲 他:整形外科学 p414~415 2016
中村 利孝 他:標準整形外科学p470,492 2017
一般社団法人 日本作業療法士協会:作業療法学全書 第9巻 作業療法技術学1 技師装具学p127~p146 2017
宮本 忠司 他:「手外科の上肢装具-手外科に対する上肢装具の現状と取り組み、今後の展望について-」日本義肢装具学会誌 28(1)2012