寝起きの指の痺れに注意!女性に多い手根管症候群の病態と治療法を解説
最終更新日 2022/8/26
接骨院がくグループ代表
柔道整復師 山田 学 監修
朝起きたら指先が痺れていて手に力が入りにくい経験をしたことはありませんか?
その痺れ、もしかしたら「手根管症候群」かもしれません。
手根管症候群は、ホルモンバランスが崩れている女性や、手に負荷がかかる仕事をしている方に多い疾患です。
はじめは一時的な痺れですが、放置すると痺れが強まり、生活に支障が生じるほどにまで悪化する可能性があります。
我慢せず、接骨院などの医療機関に相談するようにしましょう。
今回の記事では、「手根管症候群」の病態や治療法などを解説していきます。
この記事を読むことで、手の痺れに対する理解が深まるかもしれません。
寝起きの指の痺れに注意!女性に多い手根管症候群の病態と治療法を解説 もくじ
・手根管ってどこ?
・手根管症候群とは?
・発生原因
・症状
・診断
・治療方法
・まとめ
手根管ってどこ?
手根管とは、どこの部分のことを言うのでしょうか。
簡単に説明すると、手首の手のひら側に存在する”トンネル”です。
手首には、手根骨といわれる手首を構成する小さな骨がいくつか存在します。その手根骨の上を、横手根靭帯(屈筋支帯)という靭帯が覆いかぶさりトンネルを構成します。
このトンネルの中には、“正中神経”という神経と4つの筋肉が通っています。
手根管症候群とは?
手根管症候群は、手根管の中を通っている正中神経が原因で発症するものです。
皆さんも日頃、手を床についたり、手のひらに頭をのせて横向きに寝そべったりなど、手首を曲げた状態を長時間続けていると手先が痺れてきませんか?
これは、正中神経が圧迫されていることで生じた痺れです。
上記と同様に、何らかの原因により手根管が狭くなり、正中神経が圧迫を受けて痺れが生じる疾患を手根管症候群といいます。
この正中神経は、親指、人差し指、中指、薬指の4本の感覚機能や、指先を動かす筋肉を支配しています。
そのため、手根管症候群を引き起こすと、この4本の指に痺れが生じたり、指先に力が入らなくなったりと手に症状が現れます。
発生原因
手根管症候群の発生原因について紹介していきます。
・手首に負荷のかかる仕事
大工や引っ越し業者など重い物品を持つことが多い仕事は、手首へ負担がかかり発症することが多いです。また、重労働でなくても、パソコン業務や家事などを長時間続けていると、手根管症候群を発症する可能性があります。
・女性ホルモンの乱れ
まだ、明確な発生原因はわかっていませんが、ホルモンバランスの乱れで身体が浮腫み、それが手根管を狭め正中神経を圧迫してしまう可能性も指摘されています。
特にホルモンバランスが崩れやすい妊娠中や出産期、更年期の女性に発症することが多いと言われています。
・腎臓疾患
男性で手根管症候群を発症する場合に多いのが、腎臓疾患の合併です。
腎臓が上手く働かないと、体内にアミロイドという物質が蓄積してしまい、手根管に沈着することで正中神経を圧迫してしまいます。
・他の疾患
手首の骨折や関節リウマチ、腱鞘炎、ガングリオン(腫瘤)などの他の疾患により、二次障害として発生することも多いです。
神経自体を傷つけてしまったり、腫れた組織が神経を圧迫したりして、症状が出現してしまいます。
・糖尿病
糖尿病を発症している方に出現する可能性もあります。
糖尿病の症状の一つである神経障害によって、正中神経が障害されてしまい、二次障害として手根管症候群を発症する方もいます。
症状
手根管症候群で生じる症状について紹介します。
・感覚障害
手根管症候群の代表的な症状です。
手指の「痺れ」を感じ、異変に気がつくことがほとんどです。
特に人差し指と中指の痺れが最初に生じ、そのあとに母指、薬指へと痺れが広がっていきます。
一方で、痺れではなく、感覚自体を感じにくくなる場合もあります。
神経が長時間圧迫されることで、その神経の働きが低下し、支配されている指が触られても感じにくくなるなどの感覚障害が発生します。
・筋力が落ちる
正中神経は感覚だけでなく、運動の機能も司っています。
そのため、正中神経によって支配されている筋肉は、筋力低下を起こしてしまいます。
代表的なものが、手のひらの親指側に存在する母指球筋の“萎縮”です。
萎縮とは、筋肉が縮こまって硬くなってしまう現象であり、神経障害で引き起こります。
手根管症候群では、通常膨らみのある母指球筋が、萎縮し平らになってしまうのが特徴です。
・手の機能が落ちる
感覚障害や筋力低下が起こることで、指先の機能が落ち生活動作に支障が生じてしまうことがあります。
母指球筋の筋力が低下することで、親指と人差し指を合わせる「OKサイン」ができなくなってしまい、洋服のボタン留めや細かい物の把持が難しくなってしまいます。
診断
手根管症候群と診断する、判断材料を紹介していきます。
・整形外科テスト
整形外科テストは、わざと神経や血管を圧迫したり、圧迫される肢位を取ったりし、痛みや痺れなどの症状が出現するか評価する検査です。
・ティネル兆候
手のひらを打腱器などで軽く叩きます。
その際に、指先まで痺れが走ったら陽性です。
・ファーレンテスト
身体の前で指先が下を向くように両手の甲を合わせて1分程度保持します。
その際にじわじわと指先に痺れが出現してきたら陽性です。
・手のひらの筋力低下
手のひらに存在する母指球筋が萎縮していないか評価します。
・エコー検査(超音波検査)
エコー検査では、手根管内の神経、筋肉の状態をみます。
神経、筋肉が傷ついていないか(断裂・変性)などを評価します。
・X線検査(レントゲン検査)
X線検査では、手首の骨の状態をみます。
骨折していないか、骨の配列は整っているか、ガングリオンがないかなどを評価します。
・神経伝導検査
神経の伝導具合をみます。
正中神経が指先のまでしっかり伝導することができているか、速度が遅くなっていないかを評価します。
治療方法
次に手根管症候群に対しての治療方法を紹介します。
・局所安静
手根管症候群は、仕事や日々の生活動作によって手首に負荷がかかり発症することが多いです。
そのため、まずは手首の安静が第一選択です。
軽症のものであれば数分~数日で解消します。
仕事や日々の生活を調整し、手首にかかる負担を減らすようにしましょう。
・サポーター・装具
サポーターや装具を装着して、手首に負荷のかかりにくい位置に固定します。
サポーターや装具は、手根管症候群自体を改善するものではなく、手首を安静させるという目的で装着します。
また、装着することで精神的にも安心することができます。
しかし、手の形に合っていないものや、効果が感じられない方には、逆効果になる恐れもあります。
・マッサージ・ストレッチ
硬くなってしまった手首周囲の筋肉を、マッサージやストレッチで和らげていきます。
また、肘や手首、指の柔軟体操を行うことは予防につながってきますので、日頃から行うように心がけましょう。
しかし、痛みが強い炎症状態の時は、ストレッチなどのトレーニングにより、炎症を強める恐れがあるため、控える必要があります。
・薬物療法
消炎鎮痛剤やビタミンB12剤を服用し、炎症を抑えていきます。
・注射
ステロイド注射を炎症部に投与し、炎症を抑えていきます。
・術手
手根管症候群は、まず保存療法が適応されますが、悪化すると薬や注射などでは対処が難しく手術を選択する方も多いです。
代表的な手術に、「手根管開放術」というものがあります。
正中神経の圧迫を除去するために、覆いかぶさっている横手根靭帯を切り離す手術です。
まとめ
今回は、手首に負荷のかかりやすい仕事の方や、ホルモンバランスの乱れ、内科疾患によって発症しやすい手根管症候群について、詳しく解説してきました。
安静で症状がすぐに回復するものもあれば、常に痺れを感じる重症なものまであります。
就寝中や寝起きの時に手指の痺れなどを感じたら、我慢せず早めに接骨院などの医療機関を受診し、適切な治療を受けることが大切です。
参考文献
糸満 盛憲 他:整形外科学 p422~p423 2016
工藤 慎太郎 他:運動器疾患の「なぜ?」がわかる臨床解剖学 p74~p76 2013
日本整形外科学会「手根管症候群」
https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/carpal_tunnel_syndrome.html
正門 由久 他:手根管症候群 臨床神経生理学 45巻1号p59~p64 2017